綿矢りさ『生のみ生のままで』感想(旧ブログから転載)

生のみ生のままで|綿矢りさ|集英社 WEB文芸
https://www.bungei.shueisha.co.jp/contents/kinomikinomamade/index.html

 読み始める前:

わ~綿矢さんの百合もの!『亜美ちゃんは美人』とか『憤死』の女同士の関係性がハチャメチャに好きだったから楽しみ~!!!

 

上巻:

何故か逢衣と彩夏に振られた二人に対して妙に同情してしまいダメージを受ける。『ママレード・ボーイ』の両親ズのクズ親仕草であるところの二家族円満スワッピング婚がマシに思えるレベル。いや、嘘、あれはまた事情が違うし子供からしたら冗談じゃないやつ!

読んでいくうちに恋に落ちてしまった彼女たちと、このまま家庭を築いたり共に過ごすことは、どの道難しかったんだろうなと理解する。

ただ浮気とか不倫とならず、お互いこれまでの恋人とは別れてケジメをつける姿に好感を持つ。

携帯ショップで逢衣を助けてくれる西池袋のカナエのエピソードが好き。下巻のコントめいた変装も良き良き。

個人的に性愛シーンにはそこまでときめかず。

どちらかというと日常のなにげないやり取りや描写が好き。パーティーで写真撮られるエピソードもよかったし、逢衣が出版社に就職するまでのところもよかった。大きくてキツめの美人な二人が良い。

なんだかんだでお互いの夢を応援したり背中を押すような部分が一番好きかも。

そんでもって信じてた後輩ちゃんの所業に膝から崩れ落ちる。オマエーーーーー!!!!!

 

下巻:

キッツイ!キッツイ!マネージャーさんとの関係が地味に一番しんどかった。

ただ一度別れた後、事務所に約束を守ってもらえると信じていた逢衣が強い意志を持ち人間として成長や変化を遂げるエピソードがまるで少年漫画における修行パートのようでちょっとワクワクしたし面白かった。

そしてこの期間があったからこそ、再会した病気の彩夏を支えることが出来たんじゃないかなと思う。そんな説得力に溢れた描写。

 

親子関係の話。

 

蓋を開けても底の固い逢衣は絶対に割れることはない。それはおそらくあの平凡だけどまっとうで穏やかで善人たらんとする両親に愛情を注がれて育ったから。

だからこそ会えなかった7年もの間、再会を信じて自身を磨きお金を貯めてこれた…んだろうな。

対して底がひび割れ常に水が漏れ出しているという彩夏。不安定な親子関係。環境。華やかで浮き沈みの激しい芸能界。信じていた後輩の裏切り。本人の資質も勿論あるだろうけど、こんな中で仕事にすべてのエネルギーを注いで無理に働いていれば病気にもなるよ…。

再会した時に彩夏が逢衣に対しておぼえた劣等感は形は違っても誰にでもどこかに覚えのある感覚かもしれない。病気になると本当、心が弱るんだよね…。

 

そしてここまで良好な親子関係を描写しておきながら二人の関係を打ち明けた際の逢衣の両親の反応に、読者である自分も胸を痛める。

探検家を夢見ていた子供の頃の逢衣の事件で母親がうつ状態になってしまったというエピソードからも、彼女の母親が安定を何より大切にし、依存しているのだということもわかるので、時代遅れすぎ!とか本当に子供のこと大事に思ってるなら信じた道を進むこと応援してあげれば良いのにとも簡単には思えない。

逢衣と彩夏の関係は勿論だけど、それぞれの親との関係性が大変興味深く説得力のあるもので、しんどさもあるんだけどそれだけではなく(彩夏の病気が酷い時に見捨てることも出来ただろうに、そこに将来的な打算がたとえあったとしても母親は確かに面倒を見てくれたわけで)二人の関係を打ち明けた後の逢衣の両親の対応も、長い目で見ればいつかわかってくれるのではないかという希望が感じられる。

あとアニオタの妹が可愛い。

それと、逢衣の親友の存在もなかなかに大きくて、親以外に話せる相手がいてよかったねと思った。

また、そんなこともあって、逢衣と彩夏が一緒にいることを知らせるくだりの元彼ズ(それぞれ幸せな家庭を築けそうで心底安心しました)とのLINEのやり取りのところがめちゃくちゃに嬉しく思えた。事情を知っていて(というか振り回されて振られて)何年も経っているとはいえ二人の幸せを気にかけてくれている他人がいることの心強さにも安心感を覚えてしまう。

こうやって少しずつ周りの人達の理解が得られていけばいいな…。

結婚式のエピソード、神に誓う二人がよかった。

よかったけど、普通に、当たり前に、男女のカップルのように教会でもお寺でも神社でもいいから結婚式を挙げたい人は挙げられたら良いのになあ!!!!!と心底思った。

 

「どれだけ真面目に、どれだけ世間の気に入るように生きたって、”普通”に必要な条件は次から次へと出てきて、絶対に追いつけない。偉そうに生きるつもりもないけど、俯いて生きるつもりもない」

 

逢衣のこの台詞、メチャクチャわかる……となってしまった。普通に生きるのは難しい。でも、みんなと同じように出来なくても俯かなくても良いんだと自分に言い聞かせることいっぱいある。難しいけど。

 

この、なんというか、二人の選択や歩き方、世間の対応、全部が全部『令和元年発売』のこの本でしか書けなかったのではないかと思えるほど、今が過度期であると思ってるので、今読めてよかったな…。良いかんじで世の中変化していってほしい。

本人達の中で同性同士であるという葛藤は身体的な部分での戸惑いを除くとあまり見て取れず、同性だから幸せになれない、結ばれない、禁断の恋的な描写がほとんど無かったのは大変好ましかった。

それと、逢衣の祖父の話を交えて友情の定義を共有するエピソード。友情は素晴らしい。恋愛も素敵。どっちが上とかじゃない。何より恋人でありながら友人関係を利用していた部分が二人にはあるわけだし。

ただ、『違う』という感覚だけはどうしようもないんだろうな……それがどんなに素晴らしくても、素敵でも、違うと思ってしまうのはつらいんだろうな…。

海外旅行のエピソードやら他にも色々あったけどとにかく二人の生活感あふれる描写がよかったですね。脱毛とか介護(看病)とか。

このお話は本当にかなりまっすぐで純粋なラブストーリーだなと思う。ここまでシンプル&ストレートな恋愛小説めったに読まないので面白かったです。あ、なんかあんまりドロドロしてないのも好きかも。執着とかはまあ、あるんだけど。

上下巻のわりに読み始めたら相変わらずの読みやすさでサクサク読めてしまったし。

二十代の頃の激しさだけでなく三十代になって再会してからのエピソードが本当によかった。どちらかだけでなく両方あって良い。

二人にはいつまでも仲良く一緒に暮らしてほしいな~!と思った話でした。

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