京極夏彦『書楼弔堂 待宵』感想

読書メーターによると一作目『破暁』を2013年、二作目『炎昼』を2016年に読んでいるらしい。
今作は三作目。明治も30年代後半とかになってる。

 

今作だけ読んでも普通に面白いんだろうけど、それ以上に同作者他作品からの目明かし繋がりロングパスがすごいことになっているので、この本の感想だけを語るのがちょっと難しいみたいなことになってるな…と思ったら、

『書楼弔堂 待宵』著者インタビュー
[3]江戸と明治はシームレスにつながっている
https://lp.shueisha.co.jp/tomuraidou/interview3/index3.html

>僕は以前、『ヒトごろし』(上・下/新潮文庫)という幕末が舞台の作品を書いたんですが。〔中略〕極端に地味なスピンオフキャラ(笑)。随所でそれらしい回想シーンが入るので勘の良い方は割とすぐに正体に気づくと思うんですけどね。僕の小説はどっかで他の作品にリンクしてるんですが、今回は『ヒトごろし』です。

インタビューでもスピンオフキャラクターであることに言及されていて、なるほどでしたね。

関連:京極夏彦『今昔百鬼拾遺 鬼』感想(旧ブログから転載)

 

■探書拾参『史乗』

徳富蘇峰を知らなかったのでぐぐった日記

思想の変節と呼ばれるもの、周りから見たらギョッとするような変わり方であっても、本人の中ではきちんと筋が通っているんだろうな。
むしろ筋が通っていなければ周りから見ても異様なレベルで変節を遂げるのって逆に難しいだろうし。

・弥蔵と利吉の友情メーター
→♥
塩対応爺さんと高等遊民の常連か〜 ふーん

 

■拾肆『統御』

『合理の先にある非合理を希求するタイプ』の岡本綺堂。
弔堂に「めっちゃ突き詰めた先に、それでも理の通らないものが残ったとしたら、それこそがあなたの求めている”真実の非合理”なのでは?」と指摘されて、「なんだかコナンくんに出てきたシャーロック・ホームズの教え(?)みたいだな〜」とか思ってぼんやり読んでたら「そんな貴方にオススメなのがこの『緋色の研究』という本です!」という流れになってホームズ作品が登場したの、まんまと作者の手のひらの上!てなって面白かった。

消去法(Wikipedia)
https://w.wiki/6KQh

>「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる」
>”When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.”

シャーロック・ホームズって子どもの頃に1作か2作読んだぐらいなんだよな。しかも自分が読んだタイトルがなんだったのかもよくわかってないという…。
井上円了は1巻に出てきたんだっけかな…?

・弥蔵と利吉の友情メーター
→♥♥

 

■拾伍『滑稽』

操觚者縛り?なのか、宮武外骨が登場していよいよ明治のエルピス(※ドラマ)になってきた。
もしかして今回のテーマって政権腐敗と軍拡と市民とジャーナリズムだったりするのかな…?

弔堂に本を売りに来た客という珍しいシチュエーション+弔堂の粋な計らいが光る良い話。
わりと素直な人情話なので今巻で一番か二番目に好きかも。
今の世にもし宮武外骨がジャーナリストやってたらどう思うんだろうな…。

・弥蔵と利吉の友情メーター
→♥♥♥
利吉どん、操觚者、向いてないってよ!
落ち着きはないし不器用だし力があるわけでもない慌て者だけど約束を守り通そうとする律儀な姿は好感度が高い

 

■拾陸『幽冥』

銭湯回。ポスターのイラストにデザイン性を見出す竹久夢二。
撓(しほる)くんが大八車に轢かれて怪我をするハプニングにはヒヤヒヤさせられた。警察に届けたほうがいいよ。
選ばれたのは本ではなくサロメの挿絵でした?
一昨年初めてサロメをきちんと読んでおいて良かった。
結局、親子とか血の繋がりなんて関係ない!という話をしつつ、もしかして女関係は遺伝してる………!?というオチなのだろうか……。

・弥蔵と利吉の友情メーター
→♥♥♥♥
銭湯で勝手に待っててくれる利吉どんは神田川で可愛い

 

■拾漆『予兆』

ここらへんに来るともう利吉のイマイチ何事も上手く行かない間抜けさと当たり前のように弥蔵を気遣う情の深さと一所懸命さが尊くて可愛いというのがメイン感情になってしまって駄目です。

寺田寅彦(の依頼人)が求めているのは土方さんの日記かしら?と思って読んでいたら永倉さんのだった。
まさかの藤田五郎も登場して俄然『ヒトごろし』濃度が高くなってくる。

・弥蔵と利吉の友情メーター
→♥♥♥♥♥
弥蔵をミルクホールに連れて行ってあげようと画策する利吉どん良いやつすぎない???(失敗に終わったけど…)こんぺいとう食べてご機嫌なの迷惑客で良いですね

 

■拾捌『改良』

今作ここまで付き合ってきた弥蔵の自罰的思考、懊悩、ウジウジ、トラウマ、へそ曲がり。
読者としてもまあこんなに自分の過去を責めてるからには幕末の色々で暗殺のひとつやふたつぐらいはしてたんだろうな……と予想はしてたものの、いやヒントもあったけど、マジでその人までやってたのぉ!!!!?????という、『ヒトごろし』からのロングパスとも言える驚きの事実が明らかになる。

それこそ今でも「もしあの時あの人があんな死に方をしていなければ今の世界はどうなっていたんだろう」と問われ続ける国内歴史人物筆頭みたいな人を、上司に言われるままに殺して生き延びてしまっている奴だったのかと思うと、メタ的な重みが急に増す。
ほらぁ!さっきまで同じ幕末を生きた者の悩み分かる〜みたいなテンションだった藤田さんもさすがにびっくりしてんじゃん!!!!

しかし若い頃「正しいことがしたかった」と告白する弥蔵、ますますエルピスだな…と思うと同時に、エルピスの先に必要なものを描いているのもまた確かで、時代って…繰り返されるのかも……と考えさせられる。

これだけ「歴史も人生も何が正しくて間違っているのかなんて誰にもわからない」と語られつつ、戦争ほど愚かなものは無い、いたずらに人の命を奪う戦争だけは絶対にしてはいけないという戒めだけは侵さないでいるっぽいのは、弔堂が僧侶キャラクターだからというだけではない強い理性が感じられた。

「実際の戦いを知らない偉い奴らが勝手に決めた争いだとしても、現場の下っ端は命をかけて従うほかない(意訳)」というのも本当にそうだしな…。本当に、最悪だよな……。

(ていうかこうしてみると『ヒトごろし』の土方歳三ってマジでヤバかったな……)

***

今回の弔堂は全体的に変則めいてたけど、シリーズが続いてきたからこその変化球というかんじで面白かった。

背景を知ると、利吉の溢れる情け深さに対してちっとも素直になれない弥蔵にも何も言えなくなってしまうところがあるけど、メゲずに仲良く甘酒屋を営んでいってほしい。

・弥蔵と利吉の友情メーター
→♥♥♥💒♥♥♥
末永く一緒に仲良く暮らしてくれ

作者インタビューで今回女性キャラクターが一人も出てこなくてジェンダーバランスがわやになってしまったと語られていたけど、弥蔵と利吉のケアを含んだ男男関係性をやるのは、むしろバランスが良かったように思う。
遠巷説百物語の二人も良かったけど、今回この二人の関係性がとても良かったな……(良すぎたので友情メーターを設置してしまった)

 

***

次回はとうとうタイトルに『夜』が来るらしい。
楽しみだな〜!!読むまで生き延びたいものです。
ていうかこれまでの内容もかなり忘れてるから読み返したら新たな発見とかあって面白そう。

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