「厚い」「鈍器」と言われがちなシリーズだけど、電子書籍で読めばそんなの関係ないわけです。
一行が短かったり、そもそも文体なのか文章が漫画みたいに読みやすくてスラスラ読めるので、むしろライトノベルだと思っている。
「分厚い本はちょっと…」「難しい話はわからないし…」と敬遠している人ほど軽い気持ちで読んでみてほしいシリーズだったりするとこないですか???
続きからネタバレありの感想というかメモ
鵼を構成する動物(蛇、虎、貍、猿、+鵺)がそれぞれの視点の章のタイトルになっている。
蛇→久住加壽夫
虎→御厨冨美
貍→木場修太郎
猿→築山公宣
鵺→緑川佳乃
各々の抱える「謎」が次第にひとつの陰謀的な事件の姿を現し繋がっていく展開はこれまでのシリーズにもあったものなので、読んでてワクワクしつつ、今回は「モチーフになっている鵼という妖怪を小説にするとこうなるのか…!」みたいな謎の感動が得られる事件になっている。
正確には事件なんて無いんですが。
いや無いこともないんだけど。
その「無い」を敢えてやってる話なんだよな。
邪魅の雫ではカットされて物足りなかった妖怪薀蓄も一応ちょっとだけある。
でも鵺については陰摩羅鬼の瑕でも語ってたので新鮮さは少なめ。
殺人事件は死体消失のくだりがちょっとわかりにくかった。
ここは京極堂の説明が無かったらマジで意味がわからなかったと思う。
夜光塗料のくだりはなるほどな〜〜〜てなって面白かった。
マジでここらへんの仕掛けって巷説百物語のエッセンスなんだよな…。
陰摩羅鬼の瑕に登場した伊庭元刑事と木場と青木が長門の退官祝いに軍鶏鍋をつつくエピソード、良かった。
貍に良いように使われてなんかぼんやりしてた木場が、登和子の事件に首を突っ込んでからどんどんエンジンかかっていく様子も良い。
めちゃくちゃ警察手帳使うじゃん。
榎木津は木場が電車とかに揺られて移動する旅行が苦手だって知ってるんだろうな。
幼なじみ腐れ縁の会話はどこも面白すぎて笑顔になってしまった。「修チャン」呼びはズル!
榎木津の兄総一郎も味わい深くて良かった。
劇作家久住視点の関口もやたらと好印象で良かったね〜!
忙しい出掛けの場面で京極堂がたった少しの情報から久住の何もかも見通してるイベントが入ったのも、ラストで畳み掛けるようにすべてを理解して解体してくる憑き物落としの貫禄だったし、京極堂めちゃくちゃ働いてるのに誰にも気づかれないうちにホテルに帰って入浴して睡眠もとってるらしいのテキパキしすぎてて笑ってしまった。よく食べるし。なんて元気なおじさんなんだ。
陰気で色白で病弱そうな印象とは真逆で、実際は浅黒くて(ここは陰摩羅鬼)元気な京極堂は面白かったけど、信仰の話について色々と考えている途中なので、築山のパートが一番飲み込むのに時間がかかりそうなんだよな。
地理とか歴史とかよくわかんないから宗教薀蓄難しいし。
でも徳川幕府と儒教の話を陰摩羅鬼で読み返したばかりだったので、その流れで今作における明治の神仏分離とかに関してはまあまあわかったような(わからないような)かんじ。
語られてる内容が難しいから感覚的になんだけど、ここらへんの話もラストの鈴の音にかかってる部分があるっぽいなと思った。
振り返ってみると巷説シリーズと百鬼夜行シリーズの対比みたいなこともやってんのかなあとか。
探偵主任として頑張る益田も良かった。
邪魅の雫で本性(関口と同じ闇を抱えてるとか言われてるぞ!)がまろび出がちだったけど、今回は概ね明るく楽しい調子だった。
緑川さんは中禅寺のこと特別好きだったりしたのかな…?
何故かK2の宮坂さんで脳内イメージが再生されてしまった。
緑川と郷島とのやり取りが良かったな。
ていうか郷島、邪魅からそうだとは思うけどこの人めちゃくちゃ萌えキャラじゃないですか!?
地道にお仕事してる姿が良い。偉そうだけど、京極堂からも嫌われてないみたいだし、善い奴なんだろうな(なお堂島)
郷島は今は掃除とか尻拭いとか後片付けのようなことをしていて、なんかそこも良いんだよな…。
偉そうで怖い外面は鎧を身に着けてる姿みたいなこと言われてるし。
緑川さん、少し見ただけでも木場の繊細さも見抜くしすごいよ。
自分を子ども扱いせずに一人前の人間として扱ってくれる相手を信頼することにしている緑川さん、学生時代のいつメン3人もわりとそういうタイプの人間であることが伝わってきて良かった。
最後、死者の声を聞くことができてよかったね。
なんだかんだで真面目に憑き物落としやってるんだよな京極堂。衣装っていつも持ち歩いてるのかな。
それぞれのパーツが合わさってしまうことで厄介な憑き物落としになるというのがやっぱり鵼モチーフで面白い。
姑獲鳥から毎回わりと狙って肩透かしを食らわせてこようとしてる部分があると思うんだけど、今回はそれに加えて勝手に陰謀論に嵌っていく人たちの様子が読者も巻き込んで描かれていて、カタルシスとかはあんまり無かったけどこのシリーズらしい構成の事件だったなあと思う。
あ、そうか!登場人物と読者が勝手に嵌っていくところなんかは姑獲鳥に似てるんだな。
全体的にかなり姑獲鳥の夏を意識していたような気がするんだけど、今回のおさらいで姑獲鳥は読み返してないので細かいところが分からず……😂😂😂
鵼の碑を読むために鉄鼠の檻〜百鬼夜行陽を読み返していたけど、まさか巷説百物語と書楼弔堂もおさらいが必要だったとはね………!!!!!ていうかむしろ重要なのこっちでは???というかんじの内容だった。
「陰謀論がはびこる世の中にお化けは湧きにくい」 京極夏彦さん 下:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASR9F6G9VR9CUCVL02Z.html
陰謀論がはびこる世の中にお化けは湧きにくい。戦争のように、みんなが同じイデオロギーを持ってひとつの方向を向く時代には、やっぱりお化けは出てこないんですよ。幽霊なんかでもそうですが、戦時中の怪談はないんです。だって自分が死ぬかもしれないんですよ。お化けなんかよりも爆弾のほうがこわいわけで、お化けをこわがっている暇なんかない。全体主義みたいなもののなかでは、お化けは生まれにくい。いかに多様であるか、多様性をどれだけ許容できるかということが、お化けが繁盛するポイントなんです。
私は後巷説百物語のラストでべえべえ泣いてしまった読者なんですが、今回、笹村達のやり方が通じなくなっている時代というものを改めてぶつけられてめちゃくちゃ切なくなってしまった。
巷説百物語(+怪談シリーズ?)→書楼弔堂→百鬼夜行シリーズの繋がり自体は弔堂で読んでいたので、京極ワールド知ってる人だけニヤッとできる系の要素か〜?とか思ってたんだけど、もうこの昭和29年には又市さん達のやり方ってマジで通用しないんだ……というショックがあって。
ダ・ヴィンチ10月号の京極夏彦インタビューで、もうじき作中舞台でも高度経済成長時代がやってくると書かれていたけど、得体の知れない鵼という昔の妖怪は、御行の彼らにもかかっていたのかと思うとなんとも言えない寂しい気持ちになってしまった。
鵼部分にばかり注目して読んでる気がするけど、タイトルの碑はまた彼らの墓碑でもあるのかもしれない。
こんなところで巷説百物語シリーズの墓参りを!!!???
『墓の火』の笹村はやたらと怪しかったけど、まさかのまさかだった。
言われてみれば憑き物落としよりも前から白い布額に巻いてるし、名前に「市」も入ってるな…。
巷説シリーズは妖怪を取り憑けたりすることで事件を解決(?)したように見せて場を整えるけど、京極堂は解体&再構築で憑き物を落とすわけで、やってることは真逆でも「秩序の回復」自体は共通してるのかと思ってたけど、戦争や発展し始めた科学によってここまで違っちゃうなんてなあ……。
塗仏でも人物像が語られてたけど、山辺って綱渡り的だけど実行力はあるし、本当に徹底的な反戦思想の持ち主だったんだなあ…(なお堂島)
山辺機関の話ってどこかで詳しく語られているんだろうか…。著作全部追いかけてるわけじゃないからなんともなんだよな…。
京極堂が所属してた帝国陸軍の研究所とは協力関係にあったとかいう話だからまた軍部がどうとかみたいなエピソードの際には出てきたりするのかしら。
旭日爆弾計画の件でもチラチラ見え隠れする堂島、他にも罪状が山程ありそう。
中禅寺の技を勝手に仕込んだ藍童子も連れていかれちゃったし、このシリーズに望むことじゃないのかもしれないけどなんらかの形で決着がつくところ見たいなあ。
鵼を構成するパーツのエピソード達がどんどん繋がっていく(ように思える)ターンは実際ものすごくワクワクしたので、いわゆる「陰謀論」に嵌ってしまう人もきっと気持ちが良いんだろうなと思ったし、自分の考えにとって都合が良かったりワクワクしたり気持ちの良い意見とかって警戒していったほうが良いんだろうな。
でも、生存とか生活があんまり苦しいとそういう一見優しくて都合の良い論にあっさり流されてしまうのも人間なんだよな〜〜〜…。
科学的な検証や理を無視して陰謀論にずぶずぶに嵌ってしまうことを否定するためにも、この話は肩透かしで終わらなくちゃいけなかったと思うので、「待ちに待った17年ぶりの新刊で一体どんなでっかい事件が!?」みたいな気持ちにはあんまり沿っていなかったようにも思えるけど、むしろそこが肝だったんだろうな。
妖怪シリーズのことキャラ萌え小説としても見ているのでなんだかんだでいつメンがワイワイしてる姿も見られて嬉しかったし、新刊の予定もあるっぽいのでまた楽しみに待ちたい。
そして最終巻が出る前に巷説百物語シリーズも読み返しとくか〜〜〜…!になっている。
幽霊になってしまう前の妖怪の話が読みたいよ。
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