横溝正史 著『八つ墓村』感想■追記

八つ墓村

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続きからネタバレを盛大にしている感想。
今作よりも前に読んだシリーズのネタバレもしています。

八つ墓村が何故「八つ墓村」なのかが語られる冒頭、380年前の落ち武者財宝伝説・落ち武者殺しからの祟りのパートから飛ばしててすごい。

・殺された落ち武者8人。
・田治見庄左衛門の一撃で死んだ者+庄左衛門で8人。
・田治見要蔵に殺された者32人+要蔵で33人。

物語が始まる前からすでに49人も死んでいる。

『悪魔が来りて笛を吹く』も相当人死が出ててヤバいと思ってたけど、八つ墓村はそれ以上だった。
『悪魔が来りて笛を吹く』には帝銀事件をモデルにした天銀堂事件が出てきたけど、田治見要蔵の凶行は津山三十人殺しがモデルになってるらしい。
なんで現実にこんなモデルになるような恐ろしい事件がポコポコあるんだよ!怖いよ!

今作の語り手は金田一耕助から「あなたのような恐ろしい立場におかれた人も珍しい。私があなただったら、生涯の記念として、この三か月の経験を書きとめておきますね」と言われて手記を書くことにした主人公・寺田辰弥。

「できるだけ早く、記憶のまだ新しいうちに、私はこんどの事件の顛末を細大あまさず書きとめておきましょう。そしてその中であなたの功績をたたえましょう」というわけで金田一耕助の出番も勿論あるものの、わりと脇役というか、『車井戸はなぜ軋る』ほどではないけど『夜歩く』レベルというか、比較的「探偵は添えるだけ……」みたいな扱いかなあと思う。
まあ鍾乳洞大冒険とかはあったけど。

なんといっても今回はエロゲー*っぽさがものすごい。

*特定の作品を指しているわけではないけれどジャンル作品に漂うモチーフや設定、雰囲気などを主観でまとめて雑に呼んでいます。

金田一耕助。ADVゲームのような画面。

■姉御肌で強か、面倒見の良い陽気な寡婦・森美也子
■病弱なれどおっとりして人が良く、主人公を信じてくれる優しい姉・田治見春代
■無垢で無邪気で健気で主人公のことを「お兄さま」と呼び慕う里村典子

メインヒロインはこの三人かな?

八つ墓村が最近のオタク向け作品だったら小竹様と小梅様は「のじゃロリ」婆さんとかにされそう(??????)いやでも双子の老婆というのがチャームポイント(?)なんだからそこはやっぱりそのままだな。
ていうか双子なのに入れ替えトリックみたいなのが無かったの意外だった。
まあ事件の仕掛けを解くのに無関係というわけではなかったけど…。

長持ちの仕掛けから地下に降りて冒険をするシーンもワクワクして面白い。
若くして亡くなった母の遺したお守りが、宝の眠る地下鍾乳洞の地図になってるのも王道っぽい(母親である鶴子は本当に気の毒すぎる…)

腐った甲冑を着せられた兄そっくりの腐らない死体とか、あまりにも面白くてびっくりした。みんな大好き屍蝋だ!!!(主語でか)

大伯母の入れてくれたお茶を飲むか飲まないか、分かれ道を右に行くか左に行くか、今夜も地下に潜るか、それとも姉の言うことを聞いておとなしく眠るべきか…?そういったいくつもの見えない選択肢が絶対にあったと思う。

途中から、春代の具合が良くないので相談や話が出来なくなったり、美也子が急によそよそしくなるという、典子ルートに入ったな……!?というのがあからさまにわかる部分などもあり、本当にゲームみたいだった。

それにしても典子、あの初対面から大団円まで導くパワーが強すぎてすごくない!?
初対面の主人公、めちゃくちゃ失礼でさ、

慎太郎のすぐ隣に、妹の典子が座っている。私はひとめその顔を見たときから、醜い女だときめてしまった。人間というのは現金なものだ。もし彼女が美人であったならば、私も大いに同情もし、父の罪業に関して自責の念も感じただろう。しかし、彼女があまり美しくなかったのでいっこうそんな気が起こらないばかりか、私はいくらか安心したような気持ちだった。

102ページより

コイツ(主人公)何様??????ってイライラしたんだけど、地下道イベントと秘密の共有と夜会話を重ねることで、

なるほど、私はちかごろ典子がしだいに好きになってきている。しかも、不思議なことには、典子が急に美しく見えてきたものである。それについて私は反省したことがある。ひょっとすると、あばたもえくぼの類で、典子に惚れてきたので、あの月足らず娘が、急に美人に見えてきたのではないかと。……しかし、そうではなかった。典子がちかごろ急に美しくなったことは、姉の春代や女中のお島も認めているのだ。〔中略〕
思うに典子は私を愛することによって、急に成長を遂げたのであろう。
〔中略〕
だが、そうは言っても私はまだ、典子を愛しているとは思えなかった。

318ページより

典子が美しく見えてきたとか、それは自分のおかげだとか言っててマジで何????????ってなったけど、シリーズに元からこびりついていたナチュラル女性蔑視の数々を思えばエロゲー*的な女性キャラクターへの眼差しも全然納得しちゃうんだよな。

私は姉キャラ萌えだから春代を応援してたんだけど、死んじゃって悲しかった。
でも連続で地下に潜ることによって典子ルートに入ってたからな…(?)仕方ないな…。

春代の噛み付いた傷が元で真犯人が死ぬのとかはだから「やったな…!春代…!!!!」て思った。

真犯人の動機、想い人である里村慎太郎が、良く言えば気高く、悪く言えばウジウジしてさえいなければこんなに人死の出ることもなかったのでは?というのが酷い話。
まあ前夫も殺してるみたいだからアレなんだけど…。

久野医師のひそかな殺人計画(実行する予定皆無)が美也子に乗っ取られちゃったのマジで可哀想すぎる。

対になってる存在の片方を殺すという仕掛けは結局ミスリードだったわけだけど、発想がすごく面白かったな。

関係者の中だと鶴子の恋人の亀井陽一も死んでないらしいが果たして…??とか思ってたけど、まさか英泉だとは微塵も思わなかったのでやられたーーー!!!!確かに26年前の事件当日隣村の和尚さんとこ行って碁打ってたから無事だったって書かれてたわ!!!!!てなった。これはちょっと考えればわかった部分なのでだいぶ悔しかった。

でも屏風に隠してあった若い頃の写真に主人公がそっくりっていうネタバラシ&ミスリードがあったから思いつかなくても仕方ない。のか…??

26年前の事件を知る村人と知らない村人の間の温度差とか、被害に遭った人達の憎悪が主人公に向かうところとか、田舎の怖さというよりは人間の怖さでめちゃめちゃ怖かった。

それもあって主人公のことを信じてくれる美也子や春代や典子に強くときめいたりした(ギャルゲー!!!!!!!)

終盤、扇動者が一番悪いのはそうなんだけど、それにあっさり乗っかって他者を害することになんの躊躇もなくなってしまう・むしろそれが自分達を唯一守る正義なんだと信じてしまう人々の熱狂が本当に怖かった。

村といえば

……辰弥さん、こういう時代になっても、田舎では家ほど大事なものはないのですよ。そして、その家を継いでいくのは長男です。長男が馬鹿か気ちがいでないかぎり、次男、三男が兄をしのぐということはありません。二、三年あとから生まれたというだけで、どんなにすぐれた器量をもっていても、弟が兄をしのいで、本家を継ぐことはできないのです。だから、兄と弟の器量に、それほど違いがないときは、かえって問題ありません。兄が出来が悪くても、弟の出来も同じように悪ければ、かえってあきらめがついてサバサバします。ところが、うちの父と叔父の修二さんの場合、あまり違いがありすぎました。

これいまだにあるの最悪なんだよな……。

『犬神家の一族』『本陣殺人事件』『車井戸はなぜ軋る』『黒猫亭事件』『獄門島』『悪魔が来りて笛を吹く』『夜歩く』『八つ墓村』だけ読んだけど、とりあえず現時点では世間でよく言われるようなわかりやすいイメージの「因習村」ってあんまり出てこなくて、金田一耕助シリーズで語られる「因習に囚われた人」というのは、封建的な家父長制に色々な意味で人生を踏みにじられた人々のことで、それは「村」というよりは今日まで続く日本全体の姿でしかないように見える。

ただ、あんまり「打倒家父長制!」というかんじではないのが惜しいんだよなと思ってたけど、八つ墓村のラストはそういう部分に対してわりと前向きで、

「この村に新しい事業が起こり、近代的技術を身につけた人間が、おおぜいいりこんでくるようになったら、村の人たちのものの考えかたも、いくらか変わってくるだろう。それ以外に、このいまいましい村の、迷信ぶかい人たちの考えかたを矯正する方法は見当たらない。そういう意味でも、私はこの事業を成功させねばならないのだ」

462ページより

ここに至るまでの人死とピンチにまみれた鬱屈展開を補って余りあるぐらいエンタメ的爽快感があって良いですね。

主人公は無事だし、財宝は本当にあるし、頼もしい弁護士もいるし、結婚して、子供もできて、村は慎太郎によって新事業が起こされる……まさに大団円という章タイトルにふさわしいエピソードの数々だった。

鍾乳洞内で急にエロシーンが挿入された時は「エロゲ*っぽいとはいっても限度があるだろ…!!??」とか思ったけど、ラストの懐妊と、子どもに明るい未来を託すかんじのやつに繋げたかったんだな…と思って納得した。
いやそれにしたってエロゲーすぎるんだけどぉ…!村人達が「コイツこんな場所で乳繰り合ってたのかよ!?」みたいなこと言うとこさすがに「ね!!!!!!」て同調しちゃったもん。

八つ墓村、モデルもモチーフも絵面もアイテムもイベントもエピソードも動機のしょうもなさも何もかもが強すぎる。
金田一耕助の出番がちょっと少ないことを除けばシリーズ最高傑作(暫定)といっても過言ではないかも。

ただ、読むのキツ……ってなるようなシーンも、「でも金田一耕助のおかげで助かった主人公が書いてる手記だからなんだかんだ言って大丈夫だろ」って安心して読めるところあったしな。ストレスを上手いことコントロールされた気がする。
『夜歩く』事件の関係で近所に来てたとかいうし、金田一耕助の予定詰まりすぎでしょ。

大変面白かったです。絶対売れると思う。

 


■追記

『八つ墓村』【公式】

『八つ墓村』【公式】

八つ墓村の映画も見終わったので追記。

ミステリ映画というかオカルトホラー映画だったな……?(?)
エロシーンがねっちりネチョネチョ長くて気まずかった。
金田一耕助のキャラは結構良かった。
シナリオはなんだかとっ散らかっていたように思う。
原作とは違う話だったけど映像に雰囲気があったので見られて良かったかな。
特に祟りまわりの描写が怖くて面白かった。

で、これを見て原作のラストの解釈をちょっと間違えてたことに気付いた。

慎太郎が村で新しい事業を起こして「村人たちの古臭いものの考え方を矯正させたい」と言ってるのはやっぱり『打倒封建制』というわけではなく(そういう側面も無くはないのかもしれないけど)基本的には「祟りや迷信に惑わされたり煽動されやすい愚かな村人達をなんとかしたい」みたいな話だったのかもしれない…?
あとは26年前の事件の残滓を完全に拭い去りたいとか、そういうニュアンスのような気がする。

映画のラストで鍾乳洞から飛んできたコウモリがロウソクの火にアタックかけてそれが燃え移って田治見の屋敷が火事になるの面白かった(?)けど、あのイエが燃えて無くなるというのは結構重要なイベントだよな〜と思った。
まあ映画は祟りの仕業という話なんだから炎で浄化する必要があるのもわかる。落ち武者たちも喜んでたし。

とにかく映像が強くて面白かったです。

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