ピエタとトランジを読んだ

「ピエタとトランジ<完全版> 」(著 藤野 可織)がKindleで嘘みたいな値段で買えたので早速読んだらめ〜っちゃくちゃよかったのでファンアートを描いた

自分の中の中年女性キャラクターの絵の引き出しが少なすぎて愕然としたよ!
いやたまに少女のように見えるトランジとかバリバリお洒落してるピエタなのでまあいいかになったけどもう少し増やしていきたいな。

また散らばってる感想あとでまとめるかもしれない。

まとめた↓

てっきり名探偵と助手の推理がメインのミステリものかと思っていたら妙なスピード感で人が死にまくるし事件解決は特にメインではないし最終的には終末世界滅亡バディものになったのでびっっっくりした!
ミステリかと思って読むと「???」になってるうちに世界が終わるのでそのへんは混乱を避けるために最初からSFものとして読むほうがいいと思う。よく考えてみたらトランジの体質がもうファンタジーだしな…。

人(特に女性)が自立して、自分の意志で自分のために生きる、自分のことをきちんと自分で肯定できる人が、誰かと共に生きることを自分で選んでそれを実行することの大変さと凄さと素晴らしさが溢れてくるお話。
ピエタはめちゃくちゃ体力があって有能な人間であることも作中で書かれているし、個人的にはそれだけのエネルギーがあるのが羨ましくてまぶしいんだけど。いいなー!いいなー!

たとえば森ちゃんはトランジと同じくらい賢くて優秀で天才な人物であるということが書かれているんだけど、「みんな仲良くする『べき』なので仲良くする」「有能な人間は世の中の役に立つ『べき』だから医者になりたい」「女は子供を生む『べき』だから3人くらい産みたい」と、規範意識の化け物みたいなことめちゃくちゃ言うんですよ。
そんで、そんな森ちゃんがトランジの体質を知り、確信を得てから放つ言葉が「どうしてトランジは引きこもらないの?」なんだけど、トランジの体質は森ちゃんにも感染してて、結局森ちゃんは自分の夢…というか将来設計を諦めなくてはならなくなる。
私は森ちゃんてもし安楽死が合法化したら老人や障害のある人や世間一般で生産性がないとか言われがちな属性を持ってたりそういう状態にある人に対して「なんでまだ生きてるんですか?」とか心から言いそうだな〜〜〜〜!!!!とか思ってしまった。
まあ本人だけのせいではなく世の中が悪いんだけど、行き過ぎた自己責任論でベキベキになってる規範意識の化け物!!てかんじ。
この話においてテーマ的にモリアーティの名を冠するにふさわしいキャラクターだとも思う。
ピエタの親を死に至らしめたやり方とかね…あんなの絶対二人に大ダメージ行くじゃん。
離れたいと思ったからって、親の言う通り・望む通りに生きてないからって、イコール親が嫌いとか親を大事にしてないわけじゃないんですよ(人による)は〜〜〜!えげつな!!!

私はMIU404にドハマリして珍しくドラマを毎週楽しみに見ていた人ですが、ピエタとトランジは米津玄師の感電がむちゃくちゃ似合う二人だと思う。
だってこの人が死にまくる世界において海辺の寒村全滅事件を経て「お前がどっかに消えた朝よりこんな夜の方がまだましさ」になるのそのとおりすぎてあまりにも強くない……?
夫惨殺未遂事件ラストで「お前はどうしたい?返事はいらない」になるの超良くない…?(いや返事はしてますが…)
マジでめちゃくちゃ人が死ぬ、人の命がメロンソーダの泡みたいな世界で現代における一般常識的な倫理観には欠けた二人が一瞬のきらめきをくたばるまで食べ尽くすの最高最高最高じゃないですか……!?最高。

無差別大量死夢想事件と夫惨殺未遂事件の重みが小説として本当にすごいんだけど、あの体質のトランジにとって死なないピエタがどれだけの救いであり、その上で隣に並び立ってくれる稀有な存在であるかということは、どう読んでもわかりやすくわかるじゃないですか読者にも。
でもこれはピエタの手記なのでピエタにとってトランジがどれだけ…ということがこの失われた二人の年月を通してめちゃくちゃ丁寧に伝わってくるの熱いんですよね。

離れてより強くわかることだけど実はお互いがお互いにとっての【ピエタ】であり、共に過ごしていない時はパッと見た感じ普通に生きているように見えるけど実は屍体の【トランジ】でもある……みたいな…。
いや【ピエタ】はともかく私は【トランジ】というものの存在を今回始めて知ったのでちょっと違うのかもしれないけど…。

色彩を欠いた日々、トランジに出会う前のぼんやりした夢想癖、呼ばれる意味の無い名前、誰かが言ってた「そうするべきだから」という本人の意志を介さない理由……。
ピエタとトランジは出会った二人の色彩の日々が老いてもなお続くのがめちゃくちゃ良くてさ……若い時だけが青春でも人生でもなくてさ………日々最高なのが伝わってくるんだけどこれはやっぱり離れてた期間をきちんと書いてくれたからというのが大きい。のでこの辺はコンビ好きには寂しいけどよく出来てるんだよな…。

男男のバディものはなんだかんだ言って世の中に沢山あるし、男女のバディものも異性愛になるかならないかみたいな描写含めて大量にある。
女子高生や女子大生なんかも多分まあまあある。でも私の知る限りだと中年や老人の女女バディものってすぐには思いつかないし、そんないくつも名前を挙げられない。
作中でもかなり意図的なかんじで書かれてたことだけど、女性は特に年齢とともに一人の人間としてではなく役割を生きなくてはいけないという規範意識とか同調圧力が世の中にはあって、この本ではそのとおりに生きようとした人やそのとおりに生きてきた人はあんまり幸せじゃなさそうだったり楽しくなさそうに書かれてて、逆にそういう決まりごとの外に飛び出して自分達の日々を『生活』して年老いていくピエタとトランジの二人がめちゃめちゃに楽しそうに描写されている。いいなあ〜!

創作物などでそこだけ切り取られがちな年代のあとも人生は続くし、その人生は「誰かのためのもの」でなくても良いし、楽しく過ごして全然良いんだよ!!!!楽しく過ごしましょう!!!というこのお話を「女の子はみんな薔薇の花嫁みたいなものだから」と思い込んでたり思い込まされてる人にぜひ読んでほしいんだよな…。またすぐウテナの話をする。

わかりやすいのは森ちゃんとか、ピエタの母親とか、ピエタの結婚相手とか、死を呼ぶババア探偵事件の依頼者である八坂麻里奈の母親とかなんだけど、他者や他者の願いを自分が生きることの拠り所にしてはいけない、ということも嫌ほど書かれている。
自分の人生は自分のものです。その中で自分の自由な意思で境界を超えずに他者といいかんじの距離感で交流していきましょう…みたいな話。難しいけどね!!いや本当に難しいと思う…特に社会性とか現代社会への順応性の高い人ほど難しいかもと思う。あと力が無いのも難しい……力が無くても出来たらいいのに。

依頼人に二人の関係を問われた時の受け答えもとてもよかった。未成年者相手に性的な話するとき茶化してはいけない、自分達の間柄を説明する時に異性愛者以外を踏みつけない、色々な形のパートナー関係というものがある!!自分たちは今はこうだけど今後どうなるかはわからないという。誠実。

トランジの体質とか人間的な優しさとか真面目さとか良心の在り方を見ていると、世の中に絶望したり、みんな死ね!!!!みたいな気持ちになってもおかしくないのにな〜と私なんかは思っちゃうんだけど(ていうか実際それを森ちゃんがやるので本当えぐ!)もしもトランジが誰か相手に「死ね」なんて言ったらその人はほぼ100%なんらかの理由で勝手に死んじゃうわけで、それは絶対トランジのせいではないけど責任感じてトランジの心は傷つくじゃないですか。だからトランジが「死ねよ」と言える相手はピエタだけなんですよね。カーッ!ベストマッチ!!あのやり取り大好き!!

冒頭でこれは…良書の予感…!となって感動し、読み終わってからより一層その気持ちが強まったのはピエタの手記(備忘録)のていで書かれたこのお話が「いつか誰かに発見されることを願う」構造(メタ)になってるところ。
『誰か』は別の生き物とか、宇宙人かも?とか言ってるけど、これは今を生きてる人やこれからを生きてく人に向けられた話なんだよな…。

関連してふと思い出したのでメギド72のギギガガスイベントの小説家キャラクター・フルーレティことメアリー先生のセリフをちょっと引用します。

「本っていうのはね、夜空の星と同じなのよ
誰も見てなくたって輝いてるの
自分を取り巻く忙しないものが
ひっそりとする夜になって、
初めて存在に気づくモノ
その無数の輝きに気づいた人が、
思わずその1つに手を伸ばす…

星の光はただ、夜空にあるだけ
それが本なのよ
見たいときに見ることができる、
最も身近にある芸術なの」

このとても誠実で、読んで元気のもらえるお話が、できるだけたくさんの人に届いたらいいなあ〜と思いました。

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