【R18】モブ悪魔に呼び出されて性行為に及ぶ魔人さんの話 - 2/2



肉人形の眠り

「私を好きにしたい……ですか?」
「だ、駄目ですか?」
 男が、落ち着きのない上目遣いで、デデルを見た。
 どうやらまだ若い悪魔のようだ。
 呼び出されたこの部屋の造りや調度品も、男が身につけている衣服などもやけに高価そうだが、男自身からは強い魔力を感じられない。
 ぶよぶよとした贅肉が、硬い筋肉に動かされている、どこかアンバランスな体型をしている。丸みを帯びた角の隅には苔が生えていた。
 おそらく、金の力でランプを手にしたのだろう。その願いは如何ほどのものか。
「私を使役し、果たしたい目的があるということですね? 一体何を――」
「いいえ、いいえ! 僕はあなた自身に用があるんです! というか、あ、あなたと性的な行為がしたい!」
 早口で詰め寄られ、これは妙な奴だ、とデデルは思った。

 ***

「……っ、…………」
 男の指がデデルの中に挿入されている。
 圧迫感をおぼえるが、先程から執拗なまでに塗りたくられている潤滑剤の効果か、痛みは感じなかった。
 そもそも、デデルは痛みを感じることが滅多に無い――心も、体も。
 その都度、気にしていたら、到底正気を保ってはいられないようなものを、デデルは沢山見てきた。
 興奮した鼻息の荒い男に首筋を舐められ、肌が粟立つ。
「く、苦しいですか? 魔人さん」
「苦しくは……しかし、このようなことに何の意味が……?」
「僕は、一応あなたを傷付けたくはないんですよ。そのための準備なんです」
 首筋を舐めることと、自分に傷をつけないことに、なんの関係があるのだろうか。
 男の舌が首筋から鎖骨、胸元へと、生き物のように這って器用に移動する。
 その間にデデルの内側を侵す指は一本から二本に増えていた。
 事を致すため、ベッドだけが用意された薄暗い真四角の部屋に、男の荒い呼吸音と、粘膜をしつこく弄る水音が響く。
 自分は体を横たえて、せわしなく動く主人の様子をぼんやり眺めているだけというのは、魔人として如何なものか。
 最初に言われて服を脱いだ以外、デデルは何もしていない。
 軽く勃ち上がっている男の局部に目をやる。
「私も何かしましょうか?」
「け、結構です!」
 予想したより強めの声が返ってきたので、目をぱちくりと瞬かせると、今度は言い訳をするように、男が落ち着きのない様子で語り始めた。
「ち、違うんですよ。僕、誰かに自分の予定とかペースを乱されるのが嫌っていうか、今日も、ここまでみんな予習した通りにやれてるんで、だ、大丈夫です……魔人さんは、ただ、そこに居てくれれば良いんです。僕でも上手く出来るかどうか、試しにやってみたいだけなんだから」
 それは、人形を相手にすることと、どう違うのか?
 しかし――ただ、ここに居るだけで終わる仕事というのはデデルにとっても悪くない話だった。
 誰かを奴隷にするため攫ってくるよりは、主人の願いを、自分の体一つで叶えられるほうが余程良い。
「魔人さん、あのう、なんともないですか?」
「ええ、別に……」
 何とも無いと言おうとして、男のぎょろりとした目と、視線が合った。
 先程まで男の舌が這っていた皮膚がやけに熱い。
「……これ、は」
「あ! よかった! 効いてきたのかな」
 男の声が妙な色を帯びて耳に届き、視界がぼやけ、頭がぐらぐらする。
「えへへ、僕の体液には強い催淫効果があるんですよ。相手の魔力と感覚を犯す――悪魔には珍しくもないでしょう? でも僕はこの通りの醜男なので、チャンス自体に全然恵まれなくて」
 早口なのは同じだが、先程までとは打って変わって、明るいトーンで話し始める。
 雑に指で内側をかき回され、思わず声が出た。
「ひぁ……!」
「うわ、可愛い声だなあ。気持ち良いんですか? 僕、上手に出来てるのかな?」
「あ、の……声を、やめ……」
 男の、どうでも良い言葉一つ一つが、デデルの腹を疼かせているようだった。
「声!? なるほど、体液だけじゃ駄目だったんだ。もっと最初から喋りながらやればよかったんだな。でも舐めるのと喋るの、同時にやるのは難易度が高いよなあ……慣れれば出来るようになるのかな?」
 まるで甘い毒のような、この熱をどこかに捨て去りたくて喘ぐが、体は動かず、呼吸が荒くなり、喉からか細い声が漏れるだけだった。
 すると、それを見た男の目がギラギラと輝き始めた。
 これ以上、喉からコントロール不能な音が漏れないよう、デデルは自分の手で自分の口を塞ぐ。
「ん……む……」
 だが、そんなデデルの様子を見て、男は嬉しそうに微笑み、舌なめずりをした。
「声と指だけでこんな風になるのなら、この後はどうなってしまうのかなあ。みんなは僕を馬鹿にするけれど、僕にはやっぱり淫魔の才能があったんだ。ねえ、魔人さん」
 男の声に滲むのは、好奇心や加虐心を満たし、自己承認のみを求める欲望の色だった。
 しかし、自分を呼ぶその声の力に、デデルの腰はすでに砕けそうになっていて、思考が上手くまとまらない。
「……っ!」
 ふと目をやると、先程までゆるく勃起していた男のものは、いまや完全に勃ち上がっていた。

 ***

「んん……!む……ぅ……」
「魔人さん……魔人さん……! 痛くはないですよね? こっちにも僕の体液、しっかり塗り込んだんですよ。せっかく手に入れた高くて強いランプの魔人さんを傷つけたくなかったから」
 ギチギチと、少し苦しそうに男が腰を進める。
「ハア、フウ。ねえ、魔人さん。うつ伏せだから顔が見れませんよォ! 声が可愛いなんて、もう言わないから、その手を退けて、きちんと啼いてくださいよ」
 啼けと言われてその通りにする者が、今こうして必死に唇を噛んでいるはずがないのだが。
「それに、このままじゃキスも出来ないじゃないか。僕の予定ではキスは八回することになってるんですよ。本当は挿れる前に一度、挿れながらディープキスを一度、するはずだったのに」
 催淫作用のこと、あんなに早く言わなきゃよかったな、などという自省の言葉が続く。
 デデルはというと、男の声で「魔人さん」と呼ばれる度に体の芯が熱を持ち、しかし自分ではどうにも出来ない苦しみから、何もかもを手放したくなる衝動に襲われていた。
 男は気が付いていないようだが、一度でもこの感覚に意識を奪われ手放せば、デデルは永遠にこの悪魔の言いなりになってしまうだろうという危惧があった。
 ランプの魔人として、それだけは避けなければならない。
 そんなデデルの危機感とは裏腹に、男は自分の段取り通りに事が進まないことに、苛立ち始めている。
 この状況で感情的になられるのは困る。
「く、口を塞ぐのはやめますから、そのかわり、キスをするのは無しということで」
「ええ……」
 この男の唾液で口内を蹂躪されたら、自分はどれほど狂わされてしまうのか、考えるだに恐ろしい。あくまでも提案という体で、嘆願する。
「ランプの魔人などより、もっと、大切な相手のために取っておくべきでは……?」
 デデルの提案に、不満を隠そうともしない男だったが、結局「まあ最初から崩れてる予定にこだわることもないか……」と自分なりきの納得をしたようだった。
「それじゃあ、せめて顔を見せてくださいよ!」
 安堵し、油断していたところ、ごろりと体の向きを変えられる。
「え……あ……!?」
 突然目が合い、腹の内側がゾクゾクと痺れる。
「あれ! 口の端から血が出てますよ! 痛そうだなあ……」
 貴様のせいだと毒づいてやりたかったが、相手はマスターだ。
「僕の体液、魔人さんのお腹の中から効くといいな。少しだけど、治癒作用もあるんですよ」
 親切そうに言いながら、男は、あくまでも一方的に事を進める。そこにデデルの意思の入る余地は無かった。
「魔人さん、どう、ですか……! 気持ち良いでしょう? これが僕の力です。ねえ、気持ち良いでしょう!?」
「は、あっ……ああ……! うぁ……、ひっ……!?」
「気持ち良いって、ちゃんと言ってくださいよ。そんなエロい顔して……ほら! 気持ち、良いんだろう!? 言え! 言えよ!!」
 男に両足を抱えられて、乱暴に胴体を突かれる。
 デデルは、その衝撃に合わせるように、涙を震わす。
 飲み込みきれない涎を垂らし、男にされるまま、嬌声を上げることしか出来ない。
 必死になって、それでもなんとか言葉を紡ぎ出す。
「ッ……ぁ……ハァ……き、きもち……きもちい……です…………! ああ……っ!」
 ばちゅばちゅと、肉のぶつかる音が室内に響く。
 音は次第に速度を上げ、デデルの答えに満足したのか男の口数も減ってゆく。

 ――気持ちが良い……?
 デデルにはわからなかった。ただ、体の内側、男の体液に侵された部分と、男の声に、体が勝手に反応しているだけだ。
 これが快感なのだとしたら、なんという勝手で浅ましい、自分をさらう波のように乱暴な感覚なのだろう。
 一方的な衝撃や、望みもしない強い熱を与えられ続けて、音を出すだけの肉の塊に成り果てている。
 これではまるで、本当に人形のようだと、デデルは頭のどこか冷静な部分で自嘲する。
 しかし、男の体液と熱に浮かされ、言われた通り、啼くことしか出来ない自分の今の姿こそ、ランプの魔人としての惨めな己の本性だった。
「魔人さん! 僕、もう……!」
「…………ッ!」
 激しい――快感を強制的に与えられ続け、覚束なくなっていた下半身にドロリとしたぬるい感覚が走る。
 体液による快感に体が揺れ、思わず小さな悲鳴が漏れた。
「ぅあ……!ぁ、」
 それが、自分の腹に注がれたが受け止めきれずに孔からあふれた男の性液だと、男のものをずるりと抜かれたことによる不快感でようやく気が付く。
 もっと挿れて、もっと突いてほしかったと、男の体液に浮かされた身体が勝手に震えるのは、何より最悪の気分だった。

 力を奪われ、毒のような熱を帯びたままの体は、まだ上手く動かせないので、虚ろな目だけで男を見上げる。
「ハァ……ハアー! まあ、ほぼ予定通り。上手く行ったかな?」
 額に汗をかきながら、やりきったとでもいうふうに、男が伸びをする。
 最中、デデルが萎えたままであることには、始終興味が無さそうだった。
 なんとか意識を手放すことなく行為を終えることが出来た安堵感から、目を瞑ると、獣のように独りよがる男の姿と、男が最初に言葉にした願いの通り“好きにされている”自分の、先程までの姿が蘇り、デデルは冷たく暗い気持ちに襲われた。

 ***

「魔人さん、この後ピロートークをすることになってるんですけど」
 予定でもなんでも、好きにすれば良いと、疲れた顔で無言に頷く。
 緊張が解けたように浮かれる男の話し声を聞いているうちに、体の感覚も戻ってくる。催淫効果は切れつつあるようだった。
 男は、本当は女の魔人を呼びたかったが、デデルの姿を目にして「これなら全然抱ける」と思ったということや、家が金持ちなので生活に不自由は無いが、魔力に乏しく、容姿も優れないせいで、なかなか望みの仕事にも就けず、友人の一人もいないということなどを語っていたが、デデルにとって、誰かの願い以外に興味の持てる話題は、ひとつも無かった。
「だけど、これで自信が持てましたよ! これからの本番も魔人さんにしたようにやればいいんだなって。悪魔相手でも、人間相手でも。魔人さんがあれだけ気持ち良さそうにしてたんだから、やっぱり僕のやり方は間違ってなかったんだ」
「……良いのではないでしょうか」
 ただし――意思を持つことが許されない、人形が相手であれば。
 続く言葉を飲み込み、自分を呼び出したマスターの、好きなようにまた喋らせる。

 すさんだ目をした人形は、何も変わらず。
 この後、また暫しの眠りにつくのだった。

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