『鏡は横にひび割れて』
作 アガサ・クリスティ
訳 橋本 福夫
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/320042.html
ネタバレ無し
面白かった〜!
最後、残り4%くらいのページ数に詰め込まれる怒涛の謎解きパート、珍しく自分の予想が当たっていたこともあり、没入感が強くて気持ち良かった。
終盤までマープルの置かれている状況もなかなかしんどいものだっただけに、ラストは事件とは別の部分にカタルシスが感じられたのも良かったな(いや事件のおかげといえばおかげなのでなんとも言えないんですが…)
意外にも、今この時代に読むことで結構ピリリと来る部分のある話だった。
しかし書かれた時代が時代だからなのか、作中というよりは、作者による差別表現がナチュラルに出てきがちで、ちょいちょいウーンてなるのは『そして誰もいなくなった』を読んだ時と似たような読み心地。
まあ昔の小説だからな…(魔法の言葉)
読んだきっかけ(『鎌倉殿の13人』と『ゴールデンカムイ』)
最初に読みたいな〜と思ったきっかけは、「ゴールデンカムイの勇作さんが『鏡は横にひび割れて』っぽい(らしい)」という話をネットで見かけたからなんだけど、セールで買ったきり積んでたんだよね。
で、改めて今度こそ読むか〜!てなったのは、「鎌倉殿の最終回はアガサ・クリスティのとある作品の要素が入っているらしい」という話をネットで見ていて、実際にドラマを見てみたところ、私は『オリエント急行殺人事件』だったのかな〜?と思ったんだけど、検索してみたら、これとあと『カーテン』を挙げてる人達がいて、「なるほど、『吾妻鏡』だから『鏡は横にひび割れて』…ってコト!?」と思ったのでひとまずこっちを読んでみたというわけでした。
感想としては、ウーン…どうかな……『カーテン』もセールの時に買ってあったので、そっちもいつか読んでみるつもりだけど、とりあえず鎌倉殿のラスト自体は思ったほど鏡は横にひび割れてではなかった…かなあ………?いやでも言われてみればあそこがそうなのかなあ……???みたいなかんじだった。
でも(当時開示されていた情報によれば)勇作さんにはかなり鏡は横にひび割れてみがあったな……。
ゴールデンカムイ、後半についてはちょっとまだ全然飲み込みきれないのでアレなんですが…。
ネタバレ感想
そういうわけで、パーティーで被害者が犯人にめちゃくちゃ話しかけてるシーンで「あ!ここが鎌倉殿の最終回ポイントな気がする!!」と、当たりをつけながら読んでいたので、次々に出てくる証言や捜査情報がパズルみたいに嵌まっていく感覚が味わえて楽しかった。
『スリーピング・マーダー』を読んだ時に、容疑者3人のうち、ある人物を「絶対この人が犯人に違いない!!!!」と思い込んで読んでいたせいで、いざまったく違う真相が明かされたら頭から内容が全部吹っ飛んでしまったということがあったので(なのでスリーピング・マーダーの内容をよく覚えてない!)自分の場合は事前になんらかの補助的な情報があったり、真相の一部がわかってるほうがアガサ・クリスティを読むのにはちょうど良いのかも……?とすら思った。
程度は違えどマリーナ・グレッグのような人もヘザー・バドコックのような人も実際いるよな〜〜〜〜〜………!!!と思わせる人物造形ですごい。
特にヘザーの、善良で悪意のない、普通の無邪気さを悪徳として描写しているのがマジですごい。
マープルの悩みもめちゃくちゃ生々しい。
老人はたしかに若い頃よりも体が衰えたりしてるけど、だからといって、何もできない赤ちゃんや何もわかってないバカのように扱われるのは嫌だよね。
ナイトも悪人というわけではない…という話は本筋の殺人事件とも重なっていて、人間のままならなさを感じました。
第二、第三の殺人のあたりがちょっとわかりにくくて混乱した。
結局、恐喝されたマリーナがエラもジュゼッペも殺したのかな。
エラ(ジェースンの秘書)は一回違う人に脅迫電話かけてなかった?ややこしかった。
最後、マリーナは自殺じゃなくてジェースンから過量の睡眠薬を渡されて知らずに飲んだ、他殺だと思うな。
「このひとは――この上もなく愛らしかったし、ずいぶん苦しんでもきたのです」
ジェースンは賢い人なんだろうと思うし、マリーナを本当に愛していたとも思うけど、こういう殺し方をしたのはそれとは別にジェースン自身がもうかなり疲れていたんだろうな…。
写真家のマーゴット・ベンスのくだりとか、魅力的で感情の上下が激しすぎるマリーナに関わることで人生がめちゃくちゃになったり心を深く傷つけられる人たちの説得力が凄まじかった。
養子三人のうち、気にしていない奴もいるというのは都合が良いけど救いかもしれない。
子どもがほしい!→養子を買う→自分に子どもができた!(あと飽きてきてた)→養子を手放す→生まれた実子は障害があった→めちゃくちゃショックを受けて病む
なので、しんどさにスン……てなる。マリーナ自身が衝動とか欲求をコントロールできずに振り回されている子どものような人であることも含めて、やりようがない。
養子もだけど、実子の扱いも可哀想。
時代的なものがあるから仕方ないのかもしれないけど、作中で正当なものとして扱われるエイブリズムがめちゃくちゃキツイ。
マープルの辺りはエイジズムをやっているようにも思えるけど、結局マープルは「優秀だから」再起したようにも見えるし。
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感染力の強い病気にかかっている軽症状や無症状の人が、感染している自覚があるにもかかわらず無茶をして他の人にうつしてしまい、相手が妊娠中だったために障害のある子どもが生まれてくるという話は、コロナ禍の今読むと余計にゾッとする。
自分も基礎疾患や障害があるので、無邪気で善良な『普通の』健康な人たちに殺されるんだなあ……とずっと思っていたりする。
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ミス・マープル、子どもの頃からなんとなく抱いていた「無敵のおばあさん名探偵」とは結構違って、とにかく人間くさい。
今作だけかもしれないけど、最終的に自分の足で事件現場に赴き、家の主人に会えるまでいつまでも居座ります!!!ってやるところも安楽椅子探偵のイメージと違ってパワフルで面白かった。
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